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東京高等裁判所 昭和38年(う)2177号 判決

被告人 アンドカード工業株式会社

代表取締役 安藤弥一

主文

原判決を破棄する。

被告会社を

原判示第一の一の所為につき罰金千円

同   二の所為につき罰金千円

同   三の所為につき罰金一万円

同   四の所為につき罰金三千円

同   五の所為につき罰金一万円

同   六の所為につき罰金千五百円

同   七の所為につき罰金二千円

同   八の所為につき罰金一万五千円

同   九の所為につき罰金二万円

同   十の所為につき罰金三万円

同   十一の所為につき罰金三万五千円

同   十二の所為につき罰金九万円

同   十三の所為につき罰金九万円

同   十四の所為につき罰金三万円

同   十五の所為につき罰金十万円

原判示第二の一の所為につき罰金六万円

同     二の所為につき罰金一万三千円

同     三の所為につき罰金三万円

に処する。

第一審における訴訟費用は、被告会社の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告会社の弁護人梶谷文夫、同磯辺和男名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

一  所論(第一点)は先ず、原審の訴訟手続には審判の請求を受けない事件について審判をした違法があるといい、本件起訴状の記載によれば、(一)旧型拡大机と脇机との組合わせ(二)二人用机、四人用机については、いずれも起訴の対象となつていないと認められるのに、原判決はこれらの分についても審判をしているから、刑事訴訟法第三百七十八条第三号後段該当の違反を冒しているというのである。

しかしながら、本件起訴状、その別表、検察官の冒頭陳述、訴因釈明書等の記載からみると、以上二人用机、四人用机の問題、平机にフアイリング、キヤビネツトを組合わせた問題と共に旧型拡大机にいわゆる脇机を装着すべきものとして販売した分も、共に違反として起訴をした趣旨であることを認め得べく、原審が挙示している証人佐藤安臣の証言などによつても、それらが本件物品税法違反の摘発の対象となり、告発書の内容にも包含され従つて起訴の対象とされたものであることを窺い得るといわなければならないから所論は理由がないのみならず、これを原審における審理の実際についてみても、弁護人らは当審においてこそ二人用机、四人用机、旧型拡大机と脇机の組合わせ等について起訴がないと主張するに拘らず、原審ではその点について何ら抗議することもなく審理を進行させており、殊に昭和三十五年二月五日付弁護人名義の冒頭陳述書においても、二人用机、四人用机、鋼鉄製サニタリー、デスクが課税対象とならないこと並びに鋼鉄製サニタリー、デスクと鋼鉄製脇机の組合わせ販売についても、課税対象とはならないと論じている位で、被告会社の代表者、弁護人らはそれらが起訴の対象となつていることを認識して審理を受け、防禦の手段を講じていたことが認められているのであつて、これを要するに、本件起訴状における公訴事実の記載は正確を欠く嫌はあるが、その後の過程によつて有効な是正がなされていると認められるというべきである。

次に所論(第二点)は、本件においては訴訟条件たる収税官吏の告発がない事件について公訴を受理した違法があるといい、本件告発書には旧型拡大机と鋼鉄製脇机との組合わせの場合については、全く触れていないのであるから、この問題については反則とはみていなかつたわけであり、この部分について起訴されたとしても、訴訟条件たる告発を欠くものとして公訴棄却されるべき筈である。然るに原判決が右問題についても審理判決をしたのは不法に公訴を受理したものに外ならないというのであるが、右旧型拡大机と鋼鉄製脇机に関する違反が本件告発の対象とされ且つ本件起訴の対象となつたと認むべきことは前段説明のとおりであるから原判決には所論の如き違法は存在しないというべきである。

二  次に所論(第三点)は、原判決が鋼鉄製サニタリー、デスクを物品税の課税対象となる家具としたのは、物品税の解釈を誤つているといい、被告会社製造の鋼鉄製サニタリー、デスクは近代事務組織の要請に応じた完全な事務用机で、その実質はいわば事務用機器に外ならず、それは家具というには該当しないというのであるが、およそ、家具とは「建築に附属する設備具で建物に固定されず可動なもの」をいうものと解すべきで、物品税法上の家具というのも、これと解釈を異にすべき理由はないから、この見地からして検察官の家具とは「建造物(オフイスを含む)に附属して備えつけられる用具」という定義も相当たるを失わず、本件机の如きは物品税法上の家具であると認定するべきであるから、これを課税対象と認定した原判決は相当であるというべきである。

三  次に所論(第四点)は、原判決が二人用又は四人用鋼鉄製サニタリー、デスクを、いずれも一個の机として物品税の課税対象としたのは、物品税法の解釈を誤つているといい、劇場で使用されている連結椅子については各一席毎に課税最低限を適用すべきものとされているのと同一に取扱われるべき旨強調するのであるが、所論の連結椅子の場合はその構造、すなわち各一個の席は脚は一本でもその席や背の部分は安定しており又は安定させる仕組になつており、それだけでも椅子としての独立性があり効用も十分あるのみならず、その販売方法も一席を一個の椅子とみて販売される慣行があり、本件二人用又は四人用机は、物理的に一個の物品であり単に機能的に二人ないし四人で利用できるに過ぎず、これを一人宛に分割すれば全く安定を失い机としての効用を失うに至るのみならず、その販売方法に至つても一個の価格しか存在しないのであるから、連結椅子の場合とは異り二個又は四個の机と見ることは許されないのである。(昭和三十四年十月二十六日付関東信越国税局長の検察官宛回答書、証人中村嘉穂の証言)この点について、原判決に事実誤認、法令適用の誤りがあるとする所論は理由がない。

次に、所論(第五点)は、原判決が被告会社は旧型鋼鉄製サニタリー、デスクと鋼鉄製脇机とを組で移出販売したと認定し、これに基づいて両者組合せをなすものとしてその価格を合算して物品税課税の対象とされたのは、物品税法の解釈を誤り重大な事実の誤認をしているといい、右両者は物品税の課税上は各独立しており組として課税されるべきものではない。而して、右両者が各独立とすればいずれも課税最低限度額に達しないというのであるが、たとえ、所論のように脇机自体には独自の使用目的があり、必ずしも鋼鉄製サニタリー、デスクの使用目的に従属するとは限らないとしても、本件において摘発を受けた旧型鋼鉄製サニタリー、デスクと鋼鉄製脇机とは組として移出販売されたものと認められるところ、殊に両者の高さには三十八耗の差異があり、脇机は主机の左方突出部(拡大部分)の下方に挿入し得る設計と認められるから、それは原判決認定のとおり袖机すなわち袖として使用することを主たる目的として製作されたものであると認められるし、殊に本件における両者の組合わせ販売は、いずれも主机の左下方に挿入して使用することを主たる目的とするものと認めるに妨げないので、この点について原判決には物品税法の解釈の誤りも事実の誤認も存在しないというべきである。

次に所論(第六点)は、原判決が被告会社は鋼鉄製サニタリー、デスクと鋼鉄製ユニツト、キヤビネツトを組で移出販売したから、両者合して一個の机であると認定し、その価格を合算して物品税課税の対象としたのは、物品税法の解釈を誤り重大な事実の誤認をしているというのであるが、本件における平机(鋼鉄製サニタリー、デスク)と鋼鉄製ユニツト、キヤビネツト(ウオールキヤビネツト)との組合わせ販売なるものの数量や種類等の具体的内容は総べて検察官主張のとおりであることは証拠上認められるというべきのみならず、それらが組合わせ販売であるという点は、被告会社工場の管理課主任をしていた小林子之吉及び国税局間税部係官佐藤安臣の証言により、それらは組合わせ販売であることを小林が佐藤に対し認めたので、同係官がそれらを調査の対象とし、ひいて犯則の対象としたものであることが明らかにされており、次いで、それらが通告処分、告発ひいて起訴の対象となされた経緯が明らかである。なお、その他にも原判決が認め且つ所論も自認しているように、工場移出の際から、袖として平机に結合されたもの、一個に梱包されたと認められるもの、注文書、納品書、指示書等の記載自体から組合わせ販売であることが窺えるものも多数存在することは、ひつきよう、本件において犯則として摘発されている平机とユニツト、キヤビネツトの販売は組合わせ販売であるということの裏付けを提供するものというべきで、この点について原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるものとは認められないというべきである。

しかるに、所論は更に本件鋼鉄製平机とユニツト、キヤビネツトが組合せられていたとしても、フアイリング、キヤビネツトはフアイリング、キヤビネツトであり、決して平机の袖になつてしまうわけでなく、従つてこれを一個の机として物品税課税の対象とするのは誤りである。被告会社のユニツト、キヤビネツトは事務処理の近代化、合理化を達成すべく多年の研究によつて考案されたユニツト、フアイリング、システムを具体化する機器で、鋼鉄製サニタリー、デスクの下部にこれを挿入してフツク(クリツプ)でとめるのは、ユニツト、キヤビネツトの各種使用方法(ウオールサイド型、フアイアブルーフ型、デスクハイト型、カウンターハイト型)の一種に外ならない。従つて、その場合でもユニツトキヤビネツトはフアイリング、キヤビネツトすなわち文書整理箱たる独自の使用目的と機能を具有しており、これを机の下部に挿入することによつて、袖、抽斗のように物入箱となるものではないからであるというのである。

よつて、この点について考察するに、被告会社のユニツト、キヤビネツト(フアイリング、キヤビネツト)なるものが各種の所論の如き使用方法を有し、単に平机に装着して袖机とか抽斗として使用するだけの用途に限られるものでないことは認められるから、若し顧客が両者を別々の用途に使用する目的で買入れ又は別々に買入れた場合においては、その後において両者を結合させて両袖机、片袖机として使用したとしても、両者を合一して課税対象とするが如きことが許されないことはもちろんであるが、顧客が当初より両者を一体として使用する目的で注文をし被告会社もそれに応じ組として販売をした場合においては、それは一組の物件の取引として取扱うべきであつて、両者はフツクによつて着脱自在であるとはいつても、物品税課税の上からはこれを別々のものとみるべきものではない。すなわち、フアイリング、キヤビネツトを装着させることにより、平机の机としての機能効用は増進されるとみるべきであり、顧客が右両者を両袖机、片袖机という名称で注文をするのも机としての効用を重んずるからであるといわなければならない。

所論は、フアイリング、キヤビネツトを平机の下に装着させても、従来の机の抽斗のような物入れ箱とはならず、それは文書整理箱たる機能を有しているから机と一体とはならないで独立の存在を保持しているという趣旨の主張をしているが、フアイリング、キヤビネツトを平机に装着させて使用することは、従来の机の抽斗の機能を事務能率の上からいつて進歩向上させるものであるに過ぎず、顧客が片袖机、両袖机として注文し、被告会社において注文に応じ平机とフアイリング、キヤビネツトの組合わせをもつてこれに応じていたのは、従来の机の効用ということを全然離れた効用を目的としたものではなく、これらの組合わせをもつて従来の机というものの機能を進歩向上させようという考であつたとみられるのみならず、結局この両者の組合わせの作用をいわゆる机の性格を脱却したものとみる必要はなく、換言すれば、この両者の組合わせにおいては机としての作用が依然優越し、フアイリング、キヤビネツトの作用は机の使用目的に従属するものといわなければならない。而して、このことは所論引用の物品税法基本通達(昭和三十四年間消四―一八による改正前の通達による)第一条第二項、第三条からみても、平机の原価の方が五十二対四十八という比率で優越していること、主要の用途が机としてであること、それは組合わせることにより机の新時代の使用法に適うという意味で利用上机としての効用が上昇すると見得る等の点からいつて、机に主体性が認められるというべきであるから、結局以上両者の組合わせ販売においては、課税上一個又は一組として取扱われることが相当であると認め得るのである。原判決が本件のうち平机とフアイリング、キヤビネツトの組合わせ販売分について両者を合一して課税対象とすべきものとしたことは誤りとはいえない。

次に所論(第七点)は、原判決が被告会社は鋼鉄製サニタリー、デスクとバツクバネルを組で移出販売したから、両者は一体として課税対象となると判示したのは、物品税法の解釈を誤るものであるというのであるが、所論バツクバネルの如きは、それ自体独立した作用を営むものではなく、机に対し附属作用を営むに過ぎず、それを必要とする買主もあり、必要としない買主もあるというに止まるのであつて、必要とする買主が机に装着させて使用する目的で机と共に注文をし、被告会社もそれに応じた場合には、当然机と一体となるものとして物品税課税上の取扱いをすべきものであることは、常識上からも、また前記基本通達の趣旨からいつても当然であるとすべきで、原判決にはこの点について何ら物品税法の解釈を誤つた違法は存在しないというべきである。

四  次に所論(第八点)は、原判決が被告会社代表取締役安藤弥一及び小宮山利三に物品税法逋脱の犯意があると認定したのは、重大な事実誤認である。同人らには物品税逋脱の犯意はなかつたと主張するのである。

しかしながら、記録並びに原判決挙示の証拠に徴すれば被告会社の右当事者らに物品税逋脱の犯意がなかつたとはいい得ないと認むべきである。

すなわち、例えば鋼鉄製サニタリー、デスクが物品税法上家具に該り物品税の対象となるものとされていたのを知りながら、被告会社の当事者は敢てそれは家具に該らないと解しようと試みていたと認められることをはじめとし、同人らはいわゆる新型机とユニツト、キヤビネツトとの組合わせ販売の問題についても、組合わせ売却すれば物品税がかかるので、別々に販売したようにして、物品税がかからないように工夫し、その結果顧客にも幾分安価に提供しているというような実情も認められるから、これらの点においては、物品税逋脱の犯意が認められるのみならず、その余の旧型鋼鉄製机と脇机との組合わせの販売や新旧鋼鉄製平机とバツクバネルとの組合わせ販売についても、同様の見地から物品税逋脱の犯意がないとはいい得ないと認めるべきである。

所論は、所轄税務署の行政指導が杜撰であつたことを非難しており、実際においても被告会社の当事者と税務当局との間の連絡が不足していたのではないかと認められる節もあるが、一面において被告会社の当事者は税務署の解釈や意向の如きには多く意を用いず、自分の独自の見解を推進するという傾向があつたことが窺われるから、本件が全面的に税務当局の行政指導宜しきを得なかつたことの所産であると非難することはできないというべきである。結局本件については、被告会社当事者に事務用機器の改良・進歩ということについての意慾のあつたことは十分察知し得るけれども、その意慾はやや気負いに偏し、税務行政における指導とか、慣行の軽視に傾き、税務当局との間に意思の疏通を欠くこととなつたことは否み難く、そのため本件犯則を導くことになつたわけであると認めるべきであり、被告会社の代表者安藤、小宮山の両名に、物品税逋脱の犯意がなかつたという弁解は所詮容れ難いものといわなければならない。

五  次に、所論は原判決の被告会社に対する科刑は不当である、被告会社に対する科刑については罰金刑について刑の執行を猶予されたいというのである。

よつて按ずるに、被告会社の当事者が多年科学的事務管理の方法について研鑚を積み、事務用機器の製作について貢献し、その業績についてみるべきものがあることは記録に徴し認め得るところである。ところで本件違反は被告会社の当事者が科学的事務管理という見地から事務用機器の進歩、向上を庶幾し且つ顧客に対し低廉な価格をもつて機器を提供しようという考を推進するの余り、税法の運用、慣行を無視するに傾いたため発生した事案であると認められ、飽くまで利潤を追求するため弁解の辞もない違反を敢てしたものではないと認められる点において、その犯情は通常の脱税事件と趣を異にするものがあると認められるのである。例えば、問題の二人用、四人用机が課税の対象となるか否かについて、劇場用の連結用椅子との課税上の取扱の異同についても、被告会社の当事者は敢て税務当局の意向を打診する用意を欠いているのであり、かかる被告会社当事者の慎重を欠いた行動は惜しまるべきである。而して、原判決の本件についての科刑をみるに、通常の物品税逋脱の事案についての科刑としては決して過重であるとは認められないが、右説明の如く本件犯情が左程悪質のものとは認められない点から考察すれば、原判決が被告会社に対して科した各罰金刑は相当程度これを軽減すべき余地があるものと認むべきであり、量刑不当の論旨は結局その理由があることに帰するものといわなければならない。もつとも、所論は本件については罰金刑に対し執行猶予を与えるべき情状があるというのであるが、諸般の情状に鑑みても罰金刑に対し執行猶予を与えるべき程ではないと認むべきである。

よつて、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条に則り、原判決を破棄すべく、但し同法第四百条但書により当裁判所において更に裁判をすべく、原判決が適法に確定した事実関係に対し左のとおり法律の適用をする。

すなわち、被告会社の本件当時における代表取締役安藤弥一及び小宮山利三の被告会社の業務に関する原判示各所為は、昭和三十七年法律第四十八号物品税法以前の旧物品税法第十八条第一項第二号に違反しているのであるから、右昭和三十七年法律第四十八号物品税法附則第十四条旧物品税法第二十二条により、被告会社を原判示各所為につき、それぞれ主文第一項のとおりの罰金に処し、第一審における訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被告会社に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 井波七郎 荒川省三 小俣義夫)

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